不法就労助長罪とは|企業が『知らなかった』では済まない外国人雇用のリスク
元警視庁入管法捜査員の行政書士が解説|外国人雇用のリスク管理
採用時の確認を怠ると、雇った側が処罰されます。不法就労助長罪の仕組みと2027年4月の厳罰化
在留カードを一度確認しただけで安心していませんか。2027年4月1日から、不法就労助長罪の罰則は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に引き上げられます。採用時から採用後まで、企業が整えるべき確認体制を整理します。
率直に申し上げると、この感覚こそが危険です。
私は警視庁の警察官として約20年間勤務し、そのうち約10年間は入管法違反事件の捜査に従事してきました。不法残留、不法就労、偽造在留カード、他人名義の在留カードを使った就労など、実際の現場を見てきた立場からいうと、「うちは大丈夫」と思っている企業ほど、確認体制に穴があるケースは少なくありません。
自社の確認体制が十分か気になる企業のご担当者は、外国人雇用 企業サポートをご覧ください。厳罰化までに体制を整えたい方のご相談も承っています。
※本記事は一般的な解説です。個別のケースは行政書士などの専門家にご相談ください。法令・運用は今後の政令・省令・通達等により変更される可能性があるため、実際の対応にあたっては最新情報をご確認ください。
目次
外国人雇用で「知らなかった」が、なぜ通用しないのか
外国人を雇用する企業の方から、冒頭のようなご意見をうかがいます。しかし、不法就労助長罪は「知らなかった」だけでは免れられない構造になっています。
さらに、2024年(令和6年)に成立・公布された改正入管法(令和6年法律第60号)により、不法就労助長罪の罰則は2027年(令和9年)4月1日から引き上げられます。育成就労制度の施行と同じ日です。今後の政令・省令・通達等により実務運用が変わる可能性はありますが、企業側に求められる確認・管理の水準が高まっていることは間違いありません。
この記事では、不法就労助長罪の基本、改正による罰則強化、採用後に起きやすい落とし穴、そして企業が今から整えるべき実務対応を、できるだけわかりやすく整理します。
この記事のポイント【先に結論】
1.不法就労助長罪とは?|処罰される対象と3つのパターン
不法就労助長罪は、出入国管理及び難民認定法第73条の2に定められています。実務向けに整理すると、主に次のような行為が問題になります。
ここで重要なのは、処罰の対象が外国人本人だけではないという点です。企業、経営者、人事担当者、現場責任者など、「働かせた側」も刑事責任を問われる可能性があります。
不法就労には、大きく分けて次の3つのパターンがあります。
| パターン | 具体例 |
|---|---|
| そもそも就労できない人を働かせる | オーバーステイ、不法入国、短期滞在での就労 |
| 許可を受けずに働かせる | 資格外活動許可のない留学生や家族滞在者のアルバイト |
| 認められた範囲を超えて働かせる | 技術・人文知識・国際業務の在留資格で単純作業をさせる、留学生が週28時間を超えて働く、特定技能で認められていない分野の業務に従事させる |
特に注意が必要なケース
採用時には正規の在留資格があっても、実際の業務内容が在留資格の範囲を外れてしまえば、不法就労と評価される可能性があります。
2.不法就労助長罪が「知らなかった」では済まない理由
通常、刑事責任を問うには「故意」が問題になります。しかし、不法就労助長罪では、雇用主側が不法就労であることを知らなかった場合でも、そのことについて過失があれば処罰を免れません(入管法第73条の2第2項)。
つまり、「知らなかった」と説明するだけでは足りません。実務上は、企業がどのような確認を行い、その記録を残していたかが極めて重要になります。
リスクが高い5つの対応
「担当者が見たと言っている」だけでは、十分な防御になりにくいでしょう。何を、いつ、どの方法で確認したのか。その証拠が残っているか。ここまで含めて、企業の管理体制が見られます。
私が経験した不法就労の事例
捜査の現場で、他人名義の在留カードを使って面接を受けていた外国人に出会ったことがあります。本人は、在留カードの写真の人物に似せるため、髪型を整え、同じ眼鏡をかけていました。
雇用主に「写真と本人の顔をきちんと見比べましたか」と尋ねると、返ってきた答えはこうでした。
「本人が持ってきたカードなんだから、別人なはずがないと思った。」
しかし、まさにその思い込みが危険です。在留カードは、原本かどうかだけでなく、カードの写真と実物の顔が一致しているかまで確認する必要があります。髪型、輪郭、目元、耳の形など、細部まで見る意識が重要です。
マスクを外させて確認しなかった会社の担当者に対し、裁判所が不法就労助長罪の成立を認め、「在留カードの真正性や本人同一性を確認すべき注意義務」が雇用する側、または採用に関与する側にはあり、マスクをしたままでは十分な確認ができていないと判断した例も確かありました。
▶ 在留カードの確認方法を詳しく知りたい方へ
3.【2027年4月1日】不法就労助長罪の罰則はどう変わるのか
令和6年法律第60号により、不法就労助長罪の罰則は次のように引き上げられます。施行日は2027年(令和9年)4月1日、育成就労制度の施行と同じ日です。
| 区分 | 罰則 |
|---|---|
| 現行(2027年3月31日まで) | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり) |
| 2027年4月1日以降 | 5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり) |
金額よりも重い意味を持つのは、拘禁刑の上限です
金額面では「300万円から500万円へ」という点が目立ちますが、実務上より重い意味を持つのは、拘禁刑の上限が5年になることです。
刑法上、執行猶予の対象となるのは、原則として言い渡される刑が3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の場合です。法定刑の上限が5年になったからといって、直ちに実刑になるわけではありません。しかし、悪質な事案で3年を超える刑が言い渡されれば、執行猶予の対象から外れます。
また、入管法には両罰規定があります。法人の業務に関して違反行為が行われた場合には、行為者個人だけでなく、法人にも罰金刑が科され得ます。
企業側の注意点
「現場が勝手にやったことだから本社は関係ない」とは言い切れません。現場任せではなく、会社として確認・記録・管理の仕組みを持つことが重要です。
施行日までに、体制を整えておいてください
厳罰化は、すでに公布された法律の内容として決まっています。裏を返せば、施行日までに確認体制を整えておく時間はまだ残されているということです。
2027年4月1日は、育成就労制度が始まる日でもあります。外国人材の受入れを拡大しようとしている企業にとっては、罰則の引上げと制度の切り替えが同時に来ます。体制の見直しは、この2つをまとめて考えられる今のうちに着手されることをおすすめします。
4.採用後に起きやすい5つの落とし穴
不法就労リスクは、採用時だけで終わりません。むしろ、採用後の業務内容の変化や配置転換で発生するケースが多くあります。
落とし穴1|技人国ビザで現場作業をさせる
「技術・人文知識・国際業務」は、学歴や職歴で培った専門知識を活かす業務を想定した在留資格です。エンジニア、通訳・翻訳、マーケティング、経理などが典型です。
一方で、次のような運用は危険です。
本人が同意していても、業務の実態が在留資格の範囲を外れていれば、不法就労と評価される可能性があります。肩書きではなく、実際に何をしているかが重要です。
▶ 就労ビザについて詳しく
落とし穴2|店長・工場長への登用
「技人国の社員を店長や工場長にしたら、すぐ経営・管理ビザに変更しなければならない」と考える方もいますが、これは単純ではありません。
専門知識を活かしたマネジメント、人員管理、売上分析、教育などが中心であれば、技人国の範囲で説明できる場合があります。一方、調理、接客、ライン作業など現場作業の比重が大きくなる場合は、在留資格との整合性に注意が必要です。
業務内容が変わる場合
業務内容が変わる場合は、就労資格証明書の取得を検討すると安心です。
▶ 就労資格証明書は取るべきか
取るべきケースと取らなくていいケースの仕分け、手数料と標準処理期間まで解説しています。
落とし穴3|特定技能・高度専門職の転職
特定技能は、受入れ機関と強く結びついた在留資格です。所属機関を変更する場合は、在留資格変更許可申請が必要です。
高度専門職1号も、所属機関が指定されるため、転職して所属機関が変わる場合には在留資格変更許可申請が必要になります。高度専門職2号など、在留資格の種類によって扱いが異なる部分もあるため、転職者を受け入れる場合は個別確認が不可欠です。
「前の会社を辞めて来てくれたから、すぐ働ける」とは限りません。届出だけで足りるのか、変更許可が必要なのかを、採用前に確認してください。
落とし穴4|留学生アルバイトの週28時間
留学生は、資格外活動許可を得ていれば、原則として週28時間以内のアルバイトが可能です。これは1社ごとではなく、他社での勤務時間も含めた合計で判断されます。
「うちは1日4時間しか働かせていないから大丈夫」とは限りません。複数の勤務先を掛け持ちしている場合、合計時間が週28時間を超えていないか確認する運用が必要です。
なお、2026年6月14日から特定在留カードの運用が始まっています。在留カードとマイナンバーカードの一体化により行政手続の効率化は進みますが、それだけで勤務時間超過が直ちに自動把握されるとまではいえません。とはいえ、外国人雇用状況届出や税・社会保険関係の情報など、各種行政情報との関係で、違反が発覚しやすい環境は整いつつあります。
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落とし穴5|派遣先企業の責任
派遣で外国人を受け入れる場合も、「確認は派遣元の責任」と言い切るのは危険です。派遣先で実際に在留資格外の業務に従事させていれば、派遣先企業も責任を問われる可能性があります。
特に「技術・人文知識・国際業務」で派遣就労する場合は、派遣先での活動内容が在留資格に合っているかを確認し、契約書や業務説明資料にも残しておくべきです。
5.外国人採用のリスク管理|今すぐ整えるべき確認体制
不法就労助長罪のリスクを下げるには、「確認したつもり」ではなく、「確認したことを証拠で示せる体制」が必要です。
採用時に行うべき確認(6項目)
採用後に行うべき管理(6項目)
見直しの頻度
少なくとも3か月に1回程度、在留状況と業務内容を見直す仕組みを作ることをおすすめします。
▶ 「日本人の配偶者等」の社員は、在留カードを見ても異変が分かりません
離婚しても在留カードはそのまま有効で、読取アプリでも失効情報照会でも正常と表示されます。就労制限もないため、業務内容の確認にも引っかかりません。それでいて、配偶者としての活動を継続して6か月以上行わないでいると、在留資格の取消しの対象になり得ます(入管法第22条の4第1項第7号。正当な理由がある場合を除く)。上の確認項目だけでは塞げない穴です。
6.不法就労助長罪と外国人雇用のよくある質問
Q1.技人国の社員が「自分から手伝いたい」と言って現場作業をした場合、会社の責任はありますか?
会社の支配下で在留資格外の業務を行っていると評価されれば、会社の責任が問われる可能性があります。本人の善意や同意だけでは安全とはいえません。会社として、担当させる業務と担当させない業務を明確にしておく必要があります。
Q2.M&Aや事業承継で外国人社員を引き継ぐ場合、手続きは必要ですか?
必要になる場合があります。特定技能や高度専門職1号では、所属機関の変更に伴い在留資格変更許可申請が必要となることがあります。技人国でも、業務内容や勤務先の実態が大きく変わる場合は、就労資格証明書の取得などを検討すべきです。また、在留資格によっては契約機関に関する届出が必要です。
Q3.ハローワークへの外国人雇用状況届出を忘れると、不法就労助長罪になりますか?
届出を怠ったこと自体が、直ちに不法就労助長罪になるわけではありません。ただし、外国人雇用状況届出は労働施策総合推進法に基づく義務であり、怠ったり虚偽の届出をした場合は30万円以下の罰金の対象です。また、在留管理が不十分だった事情として見られる可能性もあります。
Q4.採用後に偽造在留カードだと分かった場合、どうすべきですか?
まず就労を止め、採用時の確認資料、在留カード写し、読取結果、勤務記録などを保全してください。そのうえで、弁護士を含む専門家に速やかに相談し、必要に応じて警察・入管への対応を整理することが重要です。感情的に本人を問い詰めたり、証拠を残さず解雇だけを急いだりすると、かえって会社側の説明が難しくなる場合があります。
まとめ
不法就労助長罪の怖さは、「悪質な会社だけが処罰される」という単純な話ではないところにあります。
こうした小さな油断が、後から大きなリスクになります。そして2027年4月1日以降は、同じ油断に対する結果が重くなります。
外国人材は、これからの日本企業にとって欠かせない存在です。だからこそ、適正な在留管理と雇用管理を整え、外国人本人も企業も安心して働ける環境を作る必要があります。
企業が見直したいチェックポイント
▶ 育成就労制度(2027年4月1日施行)で受け入れる企業・監理支援機関の方へ
技能実習に代わる育成就労制度では、すべての監理支援機関に外部監査人の設置が義務付けられます。許可申請の準備は、施行日より前から進める必要があります。受け入れる企業の側も、育成就労計画の認定申請が2026年9月1日からすでに始まっています。
外国人雇用のリスク点検をお考えの企業のご担当者へ
ひとつでも不安があれば、早めの見直しをおすすめします。事件化されてからでは、対応の選択肢は大きく狭まります。
当事務所では、警察で入管法違反事件の捜査に携わった経験と、入管実務の視点を踏まえ、外国人雇用の体制点検、在留資格と業務内容の確認、採用時チェック体制の整備をサポートしています。小さな疑問の段階でも、お気軽にご相談ください。
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【法令・情報の根拠】
- e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法」(第19条 資格外活動、第73条の2 不法就労助長罪、第76条の2 両罰規定)
- 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律(令和6年法律第60号)/不法就労助長罪の法定刑引上げ・2027年4月1日施行
- e-Gov法令検索「刑法」(第25条第1項 刑の全部の執行猶予)
- 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
- 出入国在留管理庁「特定技能制度」/「育成就労制度」
- e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(第28条 外国人雇用状況の届出)/厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
- 出入国在留管理庁「在留カード等読取アプリケーション」/「在留カード等番号失効情報照会」
※本記事は2026年8月時点の情報に基づきます。法令・運用は今後の政令・省令・通達等により変更される可能性があります。実際の対応にあたっては、最新情報をご確認いただくか、専門家へご相談ください。
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毛呂 敦(もろ あつし)
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入管業務を専門とする行政書士。警視庁で約20年間勤務し、うち約10年を国際捜査官として入管法実務に従事。現場で得た知見を活かし、東京・多摩地区(ご相談場所は立川駅)を拠点に、外国人のビザ申請と企業の外国人雇用をサポートしています。 |
