永住申請と年金|「未納がなければ大丈夫」では通らなくなります
元警視庁入管法捜査員の行政書士が解説
「全部払ったか」ではなく、「期限までに払ったか」を見られています
「年金は、全部払いました。だから永住は大丈夫ですよね」——永住許可申請のご相談で、いちばん多く聞く言葉です。しかし、いまの審査で見られているのは「全部払ったか」ではありません。「決められた期限までに払ったか」です。そして2026年8月4日、出入国在留管理庁が公表したガイドラインの改定案では、さらにもう一歩進んで「将来いくら年金を受け取れる見込みか」を見る、という案が示されました。
つまり、年金の見られ方が二段階で変わろうとしています。過去の「払い方」に加えて、将来の「受取額」まで。この記事では、この二つを、できるだけやさしく整理します。
永住許可申請の要件・年収の目安・必要書類の全体像は、永住ビザ申請|要件・年収の目安・必要書類にまとめています。
※本記事は2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な解説です。改定案はまだ意見募集の段階で、確定したものではありません。個別のケースは、出入国在留管理庁の最新情報をご確認いただくか、専門家へご相談ください。
まず、あなたの年金の状況はどれですか?|読むべき章の早見表
| あなたの状況 | 読むところ |
|---|---|
| 厚生年金にずっと加入している(給与から天引き) | 過去の空白期間だけ確認。2章と5章へ |
| 国民年金を自分で納めている/納めていた時期がある | 期限内に払えているかが要注意。1章から順に |
| 過去に免除・納付猶予・学生納付特例を受けたことがある | 追納できるかもしれません。5章へ |
| 以前に帰国して脱退一時金を受け取った | この記事でいちばん重要な話です。3章へ |
| これから帰国する予定がある | 請求する前に3章を読んでください |
目次
この記事のポイント【先に結論】
1.いまの永住審査で年金はどう見られているか|「払ったか」ではなく「期限内に払ったか」
ガイドラインには「納付期限内に履行されていない場合は消極的に評価する」とあります
永住が許可されるには、法律上「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」(入管法第22条第2項)が必要です。その中身を具体的に示したのが「永住許可に関するガイドライン」で、直近では令和8年2月24日に改訂されています。
そこには、納税や、公的年金・公的医療保険の保険料の納付といった公的義務を適正に果たしていることが挙げられ、さらに次の趣旨の注記が添えられています。
「申請の時点で納付済みであったとしても、当初の納付期限内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価する」
ここが、多くの方の認識と異なるところです。「気づいたときにまとめて払ったから、いまは未納ゼロです」——その状態でも、遅れた事実は記録に残っていて、そこが見られます。
危ないのは、厚生年金に入っていない「空白の期間」です
特に注意が必要なのは、会社の厚生年金に入っていない期間がある方です。
厚生年金は、きちんと加入していれば、本人が納付書で払うものではなく、毎月の給与から控除されます。そのため、本人のうっかりで支払いが遅れるという問題は、通常は起きません。一方、国民年金は自分で納付書を使って払う仕組みです。
転職の合間、退職して次の会社に入るまでの数か月、留学から就職への切り替え時期——こうした「空白の期間」に、納付書を出し忘れた、あるいは口座の残高が足りず引き落とせなかった、という例が実際にとても多いのです。
退職から次の就職までの手続については、退職から3か月で取り消される?もあわせてご確認ください。
「未納」と「免除・猶予」は、まったく別の扱いです
所得が少ない時期に、市区町村へ申請して保険料の免除や納付猶予、学生納付特例の承認を受けていた期間は、きちんと手続を踏んだ期間として扱われます。何もせずに放置した未納とは、意味が違います。
| 記録上の区分 | 内容 | あとから納められるか |
|---|---|---|
| 納付済 | 期限内に納めた月 | — |
| 免除・納付猶予・学生納付特例 | 市区町村へ申請し、承認を受けた月 | 承認された月の前10年以内なら追納可 |
| 未納 | 手続をせずに放置した月 | 納付期限から2年を過ぎると納付不可 |
過去に収入が苦しい時期があった方は、まずご自身の記録がどちらになっているかを確認してください。「10年いける」と思い込んでいると、間に合いません。
2.永住ガイドライン改定案で年金は何が変わるのか|「将来いくらもらえるか」
2026年8月4日、出入国在留管理庁は「永住許可に関するガイドライン改定案」について意見募集(パブリックコメント)を始めました。締切は2026年9月3日(e-Govでの受付は9月4日0時まで)です。まだ確定した内容ではありませんので、以下は「そういう案が示されている」という前提でお読みください。
改定案では、独立生計要件の中に「年金」という項目が新しく置かれています。要点は次のとおりです。
何と比べられるのか|物差しは「年収上位水準で30年間の厚生年金加入」
申請時点の年齢、これまでの年金の加入状況(自営業だったか会社員だったか、加入期間、その期間の平均年収など)、そして申請時点の年収から推計される「将来受給可能な年金の見込額」。これを、日本人世帯の平均収入を上回る年収水準で30年間働き、その間ずっと厚生年金に加入していた場合の見込額と比べる、という考え方が示されています。
ここで誤解しやすいのですが、「あなたが30年間厚生年金に入っていなければならない」という意味ではありません。30年というのは、比べるための物差しを計算するための数字です。
足りない場合はどうなるのか|金融資産で補う道が用意されています
見込額が足りない場合でも、不足する生活資金を補える金融資産があると認められるときは、達しているものとして評価する、という案が置かれています。しかも、その資産額の基準は申請時の年齢に応じて決まり、若い方ほど基準は低くなります。年齢が若ければ、これから資産を作る時間が長いから、という考え方です。
配偶者がいる場合|世帯として合算して見られます
申請者と配偶者の見込額を合算して見る、という案です。比べる相手の側にも、配偶者が同じ期間ずっと扶養(国民年金の第3号被保険者)だった場合の見込額が加算されます。つまり「配偶者は扶養に入っているから関係ない」とは言えない構造になっています。
いつから適用されるのか|年金の部分は令和9年4月1日以降の申請から
改定案では、原則として令和9年(2027年)4月1日以降の申請から適用するとされています。ただし収入に関する部分など一部は、改定日の6か月前以降に出された申請で、改定日の時点で審査中のものにも適用する、という案になっています。年金の部分は令和9年4月1日以降の申請から、というのが現時点の案です。
なお同じ改定案には、年収を世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準とすること、日本語能力をCEFRのB1相当以上とすること、日本人・永住者などの配偶者の特例を「婚姻3年・在留1年」から「婚姻5年・在留3年」に伸ばすこと、なども盛り込まれています。
ネット上の「月◯万円」「年収◯◯万円」という数字にご注意ください
具体的な金額は、改定案の本文には書かれていません。ネット上で見かける数字は、少なくとも改定案本文上の正式な基準額ではありません。現段階では、鵜呑みにする必要はありません。
3.いちばん取り返しがつかない話|脱退一時金を受け取ると年金加入期間が消えます
この記事で、一番お伝えしたいのがこの項目です。
脱退一時金は、日本に住所がなくなった外国籍の方が、一定の要件を満たす場合に請求できる一時金です。帰国するときに「払った保険料が少し戻ってくる制度」として案内されることが多く、実際に受け取った方は少なくありません。
問題は、その後です。
請求前の加入期間が「すべて」なくなります
脱退一時金を受け取ると、その額の計算の基礎になった期間は、年金の加入期間ではなくなります(国民年金法附則第9条の3の2、厚生年金保険法附則第29条)。日本年金機構の請求書の注意事項でも、次のように明記されています。
「脱退一時金を受け取った方は、いかなる場合でも、脱退一時金を請求する以前の日本の年金に加入していた期間がすべてなくなります」
社会保障協定を結んでいる国の方が、母国と日本の加入期間を通算する場合も、その期間は通算に使えなくなります。
ここで、2章の話とつながります。改定案が見ようとしているのは「将来の受給見込額」です。加入期間が消えれば、当然、見込額は下がります。
そして、これが最も重いところなのですが、受け取った脱退一時金を返して期間を復活させる、という制度はありません。3年働いて帰国し、脱退一時金を受け取り、数年後にまた日本で働き始めた——こうした方は決して珍しくありませんが、最初の3年間は、年金の世界ではもう存在しない期間になっています。
上限は60か月分。でも、失う期間は60か月に限られません
一時金の支給額は、2021年4月以降の期間については60か月(5年)分を上限に計算されます。しかし、失われる加入期間は60か月に限られません。60か月を超えて加入していた場合でも、請求すれば、請求前の日本の年金加入期間はすべて失われます。
| 加入していた期間 | 支給される月数 | なくなる加入期間 |
|---|---|---|
| 36か月 | 36か月分 | 36か月すべて |
| 60か月 | 60か月分(上限) | 60か月すべて |
| 90か月 | 60か月分のみ | 90か月すべて |
日本年金機構の案内では、90か月加入していた方が請求した場合の例が示されています。支給されるのは上限である60か月分ですが、加入期間としては90か月すべてがなくなる、という扱いです。「どうせ上限があるなら、長く入っていた分は残るのだろう」と考えてしまいがちですが、逆です。長く加入していた方ほど、失うものが大きくなります。
「いつか日本に戻ってくるかもしれない」方は、請求前に一度立ち止まってください
「戻って永住を目指すかもしれない」——そう考えている方は、請求する前に一度立ち止まってください。請求期限は日本に住所を有しなくなった日から2年以内ですので、慌てて手続をする必要はありません。
4.元警視庁入管法捜査員の視点|年金の記録は、あとから作れません
私は行政書士になる前、警視庁で約20年間勤務し、そのうち約10年間は入管法違反事件の捜査に従事してきました。
記録は必ず残る。だから「あとで補てんすればいい」は通用しません
捜査の現場で身にしみたのは、単純なことです。記録は必ず残る、ということ。
年金の記録は、基礎年金番号に紐づいて、一か月単位で残ります。いつ資格を取得し、いつ喪失し、どの月が納付済みで、どの月が未納で、どの月が免除だったか。申請の直前に何をしても、過去の月の記録は変わりません。だからこそ、「あとで補てんすればいい」という発想が、永住申請では通用しないのです。
会社が社会保険に加入させていなかった——損をするのは本人です
もう一つ、捜査現場で経験したのが、会社側の問題です。本来は社会保険に加入させなければならないのに、加入手続をしていない事業所も稀にありました。
従業員の方は、給与明細に控除がないことを「手取りが多くて助かる」と受け止めていたりします。しかし数年後、永住を申請しようとしたときに、その期間がまるごと国民年金の未納として現れる。損をするのは、働いていた本人です。
給与明細を見て、厚生年金保険料の控除がない。それなのに国民年金の納付書も届いていない。もし心当たりがあれば、それは今すぐ確認することをおすすめします。
なお、審査の過程で年金や納税の資料を追加で求められることもあります。その場合の対応は資料提出通知書が届いたらにまとめています。
「自分の見込額は足りているのか」——記事では出せない答えです
加入歴も世帯の状況も一人ひとり違うため、記事では結論を出せません。ねんきんネットの画面を一緒に見ながら、現状の確認からご一緒します。
まだ申請を決めていない段階でも構いません。
5.永住申請に向けて、いまからできる3つのこと
年金の部分の適用は令和9年4月1日以降の申請から、という案です。逆に言えば、まだ手を打てる時期です。
【1】ねんきんネットで、自分の記録と見込額を見る
日本年金機構の「ねんきんネット」では、これまでの加入記録を月単位で確認でき、将来の年金見込額を試算できます。マイナポータルと連携するか、ユーザIDを取得すれば利用できます。
試算には、いまの働き方が60歳まで続く前提で自動計算する「かんたん試算」と、今後の働き方や未納分を納めた場合などを自分で設定できる「詳細な試算」があります。毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」でも、加入期間と実績は確認できます。
まずは、この3点を見てください。
【2】追納できる期間があるかを確認する
過去に免除・納付猶予・学生納付特例の承認を受けた期間は、追納が承認された月の前10年以内であれば、あとから納めることができます。追納すれば、その分だけ将来の年金額は増えます。ただし、承認された月から3年度目以降に納める場合は加算額が上乗せされます。早いほど負担は軽くなります。
一方、手続をせずに放置した未納は、納付期限から2年を過ぎると納めること自体ができません。免除の申請も、遡れるのは2年1か月前までです。ご自身の期間がどちらなのかを、必ず確認してください。
【3】これから先を、遅らせない形に変える
国民年金を納付書で払っている方は、口座振替やクレジットカード払いに変えてください。うっかりの遅れが、そのまま記録に残るのを防げます(口座振替には割引もあります)。
転職の合間や退職後は、厚生年金から国民年金への切替手続が必要です。ここを忘れると空白ができます。入管への届出も含め、退職・転職時の手続は届出を出し忘れたときの対応もご確認ください。
6.永住申請と年金についてのよくある質問
Q1.過去に3か月だけ未納がありました。もう永住は無理でしょうか?
未納があるから自動的に不許可、という制度ではありません。ガイドラインは総合的な判断を前提としています。ただし、期限内に払っていなかった事実は消極的な要素として扱われます。
まず、その期間が本当に「未納」なのか「免除・猶予」なのかを記録で確認し、そのうえで、いつ申請するのが現実的かを組み立てることになります。
Q2.永住ガイドラインの改定案は決まったのですか。いま申請すべきですか?
改定案は2026年9月3日まで意見募集中で、確定していません。内容が変わる可能性もあります。ただ、年金の部分が令和9年4月1日以降の申請から適用されるという案が示されている以上、「いつ申請するか」は現在の要件を満たしているかどうかと合わせて考える価値があります。
Q3.以前、帰国したときに脱退一時金を受け取りました。もう手遅れですか?
その期間が戻らないのは事実ですが、永住が不可能になるという意味ではありません。改定案には、見込額が足りない場合に金融資産で補うという考え方も置かれています。
また、いまから厚生年金に加入して働く期間を積み上げることもできます。ご自身が何か月分を失っているのかを、まず正確に把握するところからです。
Q4.妻(夫)は専業主婦(主夫)で、年金は扶養に入っています。永住審査に影響しますか?
改定案では、申請者と配偶者の見込額を合算して見る形が示されています。同時に、比べる相手の側にも第3号被保険者だった場合の見込額が加算されます。扶養だから不利になる、という単純な話ではありませんが、世帯として見られることは意識しておいてください。
Q5.会社が厚生年金に入れてくれていませんでした。どうすればいいですか?
まずご自身の記録を確認してください。本来加入すべき期間であれば、年金事務所に相談することで、事業所に対する調査や記録の是正につながる場合があります。
同時に、その期間の国民年金の扱いがどうなっているかも確認が必要です。時間がかかる話ですので、永住申請を考えているなら早めに動くことをおすすめします。
7.まとめ|永住申請と年金で押さえておくこと
万一、申請が不許可になった場合も、そこで終わりではありません。案件によっては、理由を正確に把握したうえで立て直す手順があります(不許可からの立て直し方)。
年金は、書類を工夫して通すという類の論点のものではありません。記録がすべてで、しかも時間をかけないと変えられないものです。だからこそ、施行までの時間が残っているいまが、いちばん動きやすいタイミングだと考えています。
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【法令・情報の根拠】
- e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法」(第22条 永住許可)
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」(令和8年2月24日改訂。納付期限内に履行されていない場合の取扱い)
- e-Gov パブリック・コメント(「永住許可に関するガイドライン改定案」意見募集。2026年8月4日開始、締切2026年9月3日)
- e-Gov法令検索「国民年金法」(附則第9条の3の2 脱退一時金)
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」(附則第29条 脱退一時金)
- 日本年金機構「脱退一時金の制度」(請求前の加入期間がすべてなくなること、支給上限60か月、請求期限2年)
- 日本年金機構「ねんきんネット」(加入記録の確認・年金見込額試算)
- 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」(前10年以内の追納、3年度目以降の加算額)
- 日本年金機構「国民年金保険料の免除・納付猶予制度」(申請可能な遡及期間)
※本記事は2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な解説です。永住許可に関するガイドライン改定案は意見募集の段階であり、内容が変更される可能性があります。年金記録の扱いや永住審査の結果は個別事情により異なりますので、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認いただくか、専門家へご相談ください。
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TAMAフロンティア行政書士事務所 代表
毛呂 敦(もろ あつし)
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入管業務を専門とする行政書士。警視庁で約20年間勤務し、うち約10年を国際捜査官として入管法実務に従事。現場で得た知見を活かし、東京・多摩地区(ご相談場所は立川駅)を拠点に、外国人のビザ申請と企業の外国人雇用をサポートしています。 |
