逮捕されたが不起訴・起訴猶予になった|ビザ更新の申請書は「無」でいい?
元警視庁入管法捜査員の行政書士が解説
不起訴や起訴猶予は刑罰を受けていないので、申請書は原則「無」です。ただし説明が要る場面があります
逮捕されたが不起訴になった、警察から書類送検されたが裁判にはなっていない――その場合、ビザ更新の申請書は「無」でいいのでしょうか。不起訴・起訴猶予と「犯罪を理由とする処分」欄の関係を、前歴・前科の違いから整理します。
この問題が分かりにくいのは、申請書に「犯罪を理由とする処分」と書かれている一方、検察官が裁判にかけない判断も「不起訴処分」と呼ばれているからです。しかし、同じ「処分」でも意味は異なります。
※本記事では、一般に使われている「ビザ」という言葉を、在留資格を含む意味で使用します。主に在留期間更新許可申請と在留資格変更許可申請についての一般的な解説です。永住・帰化、少年事件、日本国外で受けた処分は判断の前提が異なることがあるため、個別に確認してください。
目次
不起訴・起訴猶予とビザ更新|この記事のポイント【先に結論】
| 手続・処分 | 前科 | 申請書 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 逮捕・書類送検 | なし | 原則「無」 | 刑罰ではなく、刑事手続の途中です。 |
| 不起訴・起訴猶予 | なし | 原則「無」 | 裁判にかけられず、罰金などの刑罰を受けていません。 |
| 略式命令による罰金 | あり | 「有」 | 正式な法廷が開かれなくても、罰金は刑罰です。 |
| 執行猶予付き判決 | あり | 「有」 | 刑務所に入っていなくても、有罪判決です。 |
結論:逮捕、書類送検、不起訴、起訴猶予だけで終わり、ほかに刑罰を受けていない場合、申請書の「犯罪を理由とする処分」の欄は原則として「無」です。
ただし、「無」にチェックすれば何も確認しなくていい、という意味ではありません。事件がまだ捜査中なのか、不起訴で終わったのか、略式命令による罰金になっていないかを、申請前に正確に分ける必要があります。
1.ビザ申請書の「犯罪を理由とする処分」とは?不起訴も含まれる?
在留期間更新許可申請書や在留資格変更許可申請書には、次の欄があります。

日本語だけを見ると、「不起訴処分も処分なのだから『有』ではないか」と考えるのも無理はありません。
しかし、申請書の英語表記は「Criminal record」です。この欄が中心として聞いているのは、逮捕や捜査を受けた経歴そのものではなく、犯罪によって刑罰を受けた経歴です。
法務省の犯罪白書でも、「前科」は有罪の確定裁判を受けたことと整理されています。罰金も刑罰なので前科に含まれ、執行猶予付き判決も有罪判決です。
| 内容 | 刑罰 | 前科 |
|---|---|---|
| 逮捕された | なし | なし |
| 書類送検された | なし | なし |
| 不起訴・起訴猶予 | なし | なし |
| 略式命令で罰金が確定 | あり | あり |
| 執行猶予付き判決が確定 | あり | あり |
つまり、「警察に関わったか」ではなく、「最終的に刑罰を受けたか」が基本の線引きです。
2.留学生の万引きで解説|逮捕・書類送検・起訴・不起訴の流れ
架空の留学生を例に、事件発生から検察官の判断までを見てみましょう。
事例:日本語学校に通う留学生Aさんの万引き
Aさんがドラッグストアで2,000円ほどの商品をバッグに入れ、代金を払わず店を出たところ、店員に呼び止められました。万引きは法律上、窃盗です。
STEP 1店から警察へ通報・現場で身分確認や事実確認
警察署に連行され、強制捜査(逮捕)・任意捜査(家に帰れる)に関わらず取調べや、指紋採取・写真撮影などが行われます。
STEP 2逮捕される場合・家に帰れる場合
逮捕されるか、家に帰れるか(後日呼び出しがあれば応じる必要)は、事件の常習性や悪質性、逃亡・証拠隠滅のおそれなどで変わります。外国人だから必ず逮捕されるわけではありません。
STEP 3警察から検察官へ送致・書類送検
逮捕せずに、警察が事件記録や証拠を検察官へ送ることが、一般に「書類送検」と呼ばれます。逮捕された事件も身柄とともに検察官へ送られます。
STEP 4検察官が起訴・不起訴を判断
検察官は、金額、前歴、反省、被害弁償、示談などから起訴・不起訴を決めます。初めてで弁償済みでも、必ず起訴猶予になるわけではありません。
STEP 5起訴猶予か罰金かで申請書が変わる
起訴猶予なら刑罰・前科はありません。略式命令で罰金が確定すれば前科となり、ビザ申請書は「有」です。
外国人・留学生が同時に確認すべき3つのこと
「裁判所から連絡がない=不起訴」ではありません。終了したと推測せず、処分結果を確認してください。
3.不起訴・起訴猶予・前歴・前科の違い|ビザ更新で混同しやすい言葉
不起訴とは「裁判にかけない」という検察官の判断
不起訴とは、検察官がその事件を裁判にかけないと決めることです。主な理由は、次の三つです。
| 不起訴の理由 | やさしい説明 |
|---|---|
| 嫌疑なし | 人違いなど、犯罪の疑いがないことが明らかな場合です。 |
| 嫌疑不十分 | 犯罪を立証するための証拠が十分でない場合です。 |
| 起訴猶予 | 嫌疑は認められるものの、事件の軽重、反省、示談、被害弁償などを考慮して、起訴する必要がないと判断された場合です。 |
不起訴になれば、その事件について罰金や拘禁刑などの刑罰を受けず、前科もつきません。ただし、すべて「無実が証明された」という意味ではなく、不起訴の理由によって意味が異なります。
起訴猶予と執行猶予はまったく違う
| 項目 | 起訴猶予 | 執行猶予 |
|---|---|---|
| 裁判 | 裁判にかけない | 裁判で有罪判決 |
| 刑罰 | なし | あり(執行を一定期間待つ) |
| 前科 | なし | あり |
| 申請書 | 原則「無」 | 「有」 |
「猶予」という言葉だけで同じ扱いだと考えてはいけません。執行猶予付き判決は、刑務所に入っていなくても有罪判決です。
前歴と前科の違い|起訴猶予は前歴だが前科ではない
前科とは、有罪の確定裁判を受けた経歴です。正式裁判の判決だけでなく、略式命令による罰金も含まれます。
前歴は、一般に、警察や検察の捜査対象となり、検挙、送致、不起訴などの処理を受けた経歴を指す言葉です。法律で一つの意味に統一された言葉ではありませんが、刑事実務では、前科がつかなかった事件の取扱歴を含む意味で使われます。
したがって、起訴猶予は前歴に当たりますが、前科はつきません。申請書の「Criminal record」は、原則として前科に当たる刑事処分を聞いているため、前歴があるだけで直ちに「有」になるわけではありません。
4.【ケース別】逮捕歴・書類送検・不起訴はビザ申請書で「有」「無」どっち?
ケース1 逮捕されたが、嫌疑なし・嫌疑不十分で不起訴になった
原則「無」です。ほかに罰金や有罪判決がなければ、裁判にかけられず、刑罰も受けていないからです。不起訴処分告知書があれば保管しておきましょう。
ケース2 逮捕され、起訴猶予になった
原則「無」です。起訴猶予は不起訴の一種で、刑罰・前科ではありません。ただし、最近の事件や重大な事件では、別紙による説明を検討します。
ケース3 書類送検されたが、不起訴になった
原則「無」です。書類送検は刑罰ではなく、最終処分が不起訴であれば、その事件による前科はありません。
ケース4 書類送検後、処分結果がまだ分からない
まず現在の手続段階を確認します。「裁判になっていないから不起訴だろう」と決めつけるのは危険です。
申請時点で刑罰を受けていなくても、捜査中・処分待ちであることを別紙で説明した方がよい場合があります。申請後に起訴や罰金などの変化があれば、申請先の入管へ連絡してください。
ケース5 略式手続で罰金を払った
「有」です。本人に「裁判を受けた」という意識が薄くても、略式命令は裁判所が行う刑事裁判であり、罰金は刑罰です。罪名、罰金額、確定時期などを記載します。
なお、罰金の理由が交通事故(過失運転致傷)の場合は、免許停止・免許取消をどう扱うかという別の論点が加わります。詳しくは人身事故と罰金・不起訴で解説しています。
ケース6 執行猶予付きの判決を受けた
「有」です。刑務所に入っていなくても、有罪判決が確定しています。「執行猶予が終わったから無」とはしないでください。
▶ 交通違反の反則金・罰金は、別の記事で詳しく解説しています
5.逮捕歴はビザ申請に書く?不起訴・起訴猶予になった場合の考え方
通常の在留期間更新許可申請書には、逮捕歴や前歴を書く専用欄はありません。不起訴事件について、あえて「有」として「不起訴」と書くと、質問と回答がかみ合わず、かえって誤解を招くことがあります。
別紙を付ける場合も、確認できた事実だけを簡潔に書きます。嫌疑なし・嫌疑不十分なのに、事実に反して非を認める必要はありません。
6.不起訴でも説明書を付けた方がよい7つのケース
すべての不起訴事件で説明書が必要なわけではありません。ただし、次の場合は、チェック欄だけで終わらせず、別紙を付けるか専門家に相談することをおすすめします。
目的は、必要以上に不利なことを書くためではなく、申請書と客観的な情報の食い違いを防ぐことです。書くべき事実は書き、推測や感情は書かない。このバランスが大切です。
7.不起訴後のビザ更新|申請前に確認する5つの手順と書類
1 事件の最終結果を確認する
警察署・検察庁や担当弁護士に、事件番号、罪名、処分日、最終処分を確認します。「裁判所から連絡がないから不起訴」と推測しないでください。
2 不起訴処分告知書を確認する
不起訴になった被疑者は、担当検察庁にその告知を求めることができます。書面が必要なら、不起訴処分告知書の交付を相談してください。告知書だけで詳しい理由が分からないときは、担当弁護士や検察庁に確認します。
3 「罰金」を払っていないか確認する
「検察庁へ行った」「書類に署名した」「後日、お金を払った」場合は、略式命令による罰金の可能性があります。領収証、納付書、裁判所からの書面を確認してください。
4 日付順に一枚で整理する
逮捕日、釈放日、取調日、示談日、不起訴日などを古い順に並べます。記憶だけに頼らず、手元の書類を見て整理します。
5 申請後に変化があれば入管へ連絡する
申請後に起訴された、略式命令で罰金が確定した、裁判結果が出たという場合は、提出時と現在で事情が変わっています。そのままにせず、申請先の地方出入国在留管理局へ連絡し、追加説明や資料提出の要否を確認します。
8.不起訴・起訴猶予は在留資格の更新に影響する?
不起訴になったことだけで、ビザ更新が自動的に不許可になるわけではありません。
出入国在留管理庁のガイドラインでは、現在の活動、在留状況、素行、生活の安定、納税、入管法上の届出などを総合的に見るとされています。不起訴で終わった事件については、刑罰を受けた事実はありません。
ただし、これは、事件に関係する事情がどのような場合でも一切見られないという意味ではありません。本人が事実関係を認めている起訴猶予、同種事件の繰り返し、入管法違反に関係する行為、現在も捜査中の事件などは、説明を求められる可能性があります。
| 誤解 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 不起訴なら必ず許可される | 事件以外の在留状況も含めた総合判断です。 |
| 逮捕されたら必ず不許可になる | 逮捕と刑罰を分け、最終処分と現在の状況を確認します。 |
大切なのは、不起訴の種類、事件内容、時期、その後の対応、現在の在留状況を整理し、申請書と説明資料の内容を一致させることです。
9.元捜査員の視点|審査で問題になる「説明の食い違い」
捜査や審査では、失敗そのものだけでなく、書類が客観的な資料と合わないこと、説明が変わること、都合の悪い部分を隠しているように見えることが問題になります。
一方、日本語の「処分」を広く受け取り、不起訴なのに「有」と書く方もいます。必要のない不利益な説明を増やすことが、正直さではありません。
「どうすれば隠せるか」ではなく、「申請書が何を聞いているか」を正確に理解し、現在の事実に合った申請をしてください。
10.不起訴・起訴猶予とビザ更新|申請前に残りやすい6つの疑問
Q1.ビザの期限が来週ですが、検察官の処分がまだ決まっていません。結果を待つべきですか?
処分を待つために、在留期間の満了日を過ぎてはいけません。期限内に更新申請を行い、申請時点では捜査中または処分待ちであることを、分かる範囲で説明します。
申請後に不起訴、起訴、罰金などの結果が出たら、申請先の入管へ連絡し、追加資料が必要か確認してください。
Q2.被害者と示談できました。もう起訴猶予になったと考えてよいですか?
いいえ。示談は、検察官が処分を決めるときの重要な事情になり得ますが、示談成立と不起訴は同じではありません。
示談書があっても、検察官の最終処分を確認してください。反対に、示談が成立しなくても、事件の内容や証拠などによって不起訴になる場合はあります。
Q3.不起訴処分告知書に理由が書いてありません。「起訴猶予」と説明してよいですか?
確認できていない理由を、推測で「起訴猶予」と書かないでください。
別紙には、まず「○年○月○日、不起訴処分となった」と確認できる事実だけを書きます。不起訴の理由を記載する必要がある場合は、担当弁護士や検察庁に確認します。
Q4.不起訴や起訴猶予になったことを、学校や会社へ報告する必要がありますか?
入管への申請とは別の問題です。すべての事件について、学校や会社へ一律に報告するという入管手続上のルールがあるわけではありません。
ただし、学則、就業規則、奨学金の規程、職種ごとの社内規程などに報告義務が定められていることがあります。学校の処分によって退学した場合は、在留資格と所属機関の届出にも関係します。
▶ 会社側がどう動くべきかは、別の記事で解説しています
Q5.前回の更新では、逮捕されたことを心配して「有」と書きました。今回は「無」に直してもよいですか?
理由を説明せず、「有」から「無」へ変えるのはおすすめできません。入管から見ると、どちらが正しいのか分からなくなるからです。
前回は逮捕歴も対象だと誤解して「有」としたこと、その事件は不起訴で刑罰を受けていないことを説明し、必要に応じて不起訴処分告知書の写しを添えます。
Q6.同じ不起訴事件について、次回以降のビザ更新でも毎回説明書を付けますか?
すべての更新で一律に必要とは限りません。ただし、申請書の回答と過去の説明が食い違わないようにする必要があります。
事件が最近のものか、前回すでに詳しく説明したか、入管から質問を受けたかなどによって判断します。前回提出した説明書や告知書の控えは、継続して保管しておくと安心です。
11.まとめ|不起訴なら原則「無」、ただし最終処分と説明の整合性が重要
刑事手続がどの段階で終わったのかを資料で確認し、申請書の質問に合った回答をすることが大切です。
不起訴・起訴猶予とビザ申請書の書き方で迷ったら
次のような方は、申請書を提出する前にご相談ください。
刑事手続の段階と、ビザ申請書の回答を分けて整理します
当事務所では、元警視庁入管法捜査員としての経験をもとに、処分結果、申請書の「有・無」、別紙説明の要否を確認します。
書類を提出する前に、現在の状況をご相談ください。
【法令・情報の根拠】
- 出入国在留管理庁「在留期間更新許可申請書」
- 出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」
- 出入国在留管理庁「在留申請時のお知らせ及び注意」
- 法務省「検察庁と刑事手続の流れ」
- 検察庁「刑事事件の手続について」
- 裁判所「検察官による起訴・不起訴の決定」
- e-Gov法令検索「刑事訴訟法」(第248条・第259条)
- 法務省「犯罪白書」凡例(前科の定義)
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TAMAフロンティア行政書士事務所 代表
毛呂 敦(もろ あつし)
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入管業務を専門とする行政書士。警視庁で約20年間勤務し、うち約10年を国際捜査官として入管法実務に従事。現場で得た知見を活かし、東京・多摩地区(ご相談場所は立川駅)を拠点に、外国人のビザ申請と企業の外国人雇用をサポートしています。 |
